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第一章 過去と現在が交差する36

last update Last Updated: 2025-01-13 17:28:18

「売れるのは嬉しいけど、自由が無くなっちゃうな。美羽ともっといろいろな所に行きたかったんだけどな。連れ回したら、美羽にも迷惑をかけてしまうだろうから」

「迷惑……?」

「パパラッチってすげぇらしいぞ」

「そうなんですね」

芸能人ってプライバシーが無さそうだ。人気があっても制限が多くて大変な職業なのだろう。

「ちょっと待って。俺を拒否しようとしたっていうことはもしかして美羽。男、できた?」

「いませんよ、そんなの。万が一いたら、紫藤さんとこんなことしませんしお部屋にも入れません」

きっぱりと言うと安心したように柔らかく笑った。

「じゃあ、あのいかにも男へあげそうな、包装されたのは、なに?」

隠しておいたつもりなのに、見えてしまったらしい。

布団から立ち上がり取りに行き紫藤さんへ差し出した。

「ちょっと早いですけど……。あの、安物なんですけど……。お誕生日おめでとうございます」

「俺に?」

予想外だったのか驚いた顔をする紫藤さんは、ちょっとはにかみながら受け取ってくれる。

「ホームページを見ていたら誕生日があったので」

恥ずかしいけど打ち明けるとニコニコと笑っている。

「会えない間も俺のことが気になってたってこと?」

図星だけど私は首をかしげて適当にごまかした。

「見ていい?」

「どうぞ」

丁寧に包装紙から取り出すと、じっと見つめて喜んでいる。

黒い革にシルバーの星がぶら下がっているシンプルなストラップだ。

「綺麗だ。美羽、ありがとう。すっごく嬉しい」

早速、携帯につけてくれる。

キラキラと光る星には、紫藤さんが大スターになりますようにって願いを込めて送ったのだ。

喜んでくれたみたいで安心し、ほんわかした気分でいると、紫藤さんの瞳の色が色濃くなった気がした。

「こんなことされたら、ますます抱きたくなるんだけど」

あぁ私、紫藤さんの恋人になりたいんだ。

彼のことが大好きになりすぎて特別になりたいんだ。

彼女にしてくださいって、素直に言えたらいいのに。でも……言えない。

「美羽、キスしよう」

「……」

今日も、やっぱり流されてしまう。だって、紫藤さんがあまりにも魅力的なんだもの。

紫藤さんの手で体中に触れられると、そこから火がついたように熱くなって火照る。

いつも、微熱があるみたいな状態になるのだ。

あっという間に一糸まとわない姿にされてしまって、いつも以上にキスマークを
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    少し眠くなってきたところで、玄関のドアが開く音が聞こえた。立ち上がって迎えに行こうとするがお腹が大きくなってきているので、動きがゆっくりだ。よいしょ、よいしょと歩いていると、ドアが開く。大くんがドアの前で待機していた私は見てすごくうれしそうにピカピカの笑顔を向けてきた。 そして近づいてきて私のことを抱きしめた。「美羽、ただいま。先に寝ていてもよかったんだよ」「ううん。大くんに会いたかったの」素直に気持ちを伝えると頭を撫でてくれた。私のことを優しく抱きしめてくれる。そして、お供えコーナーで手を合わせてから、私は台所に行った。「夕食、食べる?」「あまり食欲ないんだ。作ってくれたのなら朝に食べようかな」やはり夜遅くなると体重に気をつけているようであまり食べない。この時間にケーキを出すのはどうかと思ったけれど、早く伝えたくて出すことにした。「あ、あのね……これ」冷蔵庫からケーキを出す。「ケーキ作ったの?」「うん……。赤ちゃんの性別がわかったから……」こんな夜中にやることじゃないかもしれないけど、これから生まれてくる子供のための思い出を作りたくてついつい作ってしまったのだ。迷惑だと思われてないか心配だったけど、大くんの顔を見るとにっこりと笑ってくれている。「そっか。ありがとう」嫌な表情を全くしないので安心した。ケーキをテーブルに置くと私は説明を始める。ケーキの上にパイナップルとイチゴを盛り付けてあった。「この中にフルーツが入ってるの。ケーキを切って中がパイナップルだったら男の子。イチゴだったら女の子。切ってみて」ナイフを手渡す。「わかった。ドキドキするね」そう言って彼はおそるおそる入刀する。すると中から出てきたのは……「イチゴだ!」「うん!」お腹の中にいる赤ちゃんの性別は女の子だったのだ。「楽しみだね。きっと可愛い子供が生まれてくるんだろうな」真夜中だというのに今日は特別だと言ってケーキを食べる。私と彼はこれから生まれてくる赤ちゃんの話でかなり盛り上がった。その後、ソファーに並んで座り、大きくなってきたお腹を撫でてくれる。「大きくなってきた」「うん!」「元気に生まれてくるんだぞ」優しい声でお腹に話しかけていた。その横顔を見るだけで私は幸せな気持ちになる。はなを妊娠した時、こんな幸福な時間がやってくると

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    美羽side結婚パーティーを無事に終えることができ、私は心から安心していた。 私と大くんが夫婦になったということをたくさんの人が祝ってくれたのが、嬉しくて ありがたくてたまらなかった。 しかし私が大くんと結婚したことで、傷ついてしまったファンがいるのも事実だ。 アイドルとしては、芸能生活を続けていくのはかなり厳しいだろう。 覚悟はしていたのに本当に私がそばにいていいのかと悩んでしまう時もある。 そんな時は大きくなってきたお腹を撫でて、私と大くんが選んだ道は間違っていないと思うようにしていた。自分で自分を肯定しなければ気持ちがおかしくなってしまいそうになる。 あまり落ち込まないようにしよう。 大くんは、仕事が立て込んでいて帰ってくるのが遅いみたい。 食事は、軽めのものを用意しておいた。 入浴も終えてソファーで休んでいたが時計は二十三時。 いつも帰りが遅いので平気。 私と大くんは再会するまでの間、会えていない期間があった。 これに比べると今は必ず帰ってくるので、幸せな状況だと感で胸がいっぱいだ。 今日は産婦人科に行ってきて赤ちゃんの性別がはっきりわかったので、伝えようと思っている。手作りのケーキを作ってフルーツの中身で伝えるというささやかなイベントをしようと思った。でも仕事で疲れているところにそんなことをしたら迷惑かな。 でも大事なことなので特別な時間にしたい。

  • 秘めた過去は甘酸っぱくて、誰にも言えない   完結編・・・第一章16

    「そんな簡単な問題じゃないと思う。もっと冷静になって考えなさい」強い口調で言われたので思わず大澤社長を睨んでしまう。すると大澤社長は呆れたように大きなため息をついた。「あなたの気の強さはわかるけど、落ち着いて考えないといけないのよ。大人なんだからね」「ああ、わかってる」「芸能人だから考えがずれているって思われたら、困るでしょう」本当に困った子というような感じでアルコールを流し込んでいる。社長にとっては俺たちはずっと子供のような存在なのかもしれない。大事に思ってくれているからこそ厳しい言葉をかけてくれているのだろう。「……メンバーで話し合いをしたいと思う。その上でどうするか決めていきたい」大澤社長は俺の真剣な言葉を聞いてじっと瞳を見つめてくる。「わかったわ。メンバーで話し合いをするまでに自分がこれからどうしていきたいか、自分に何ができるのかを考えてきなさい」「……ありがとうございます」俺はペコッと頭を下げた。「解散するにしても、ファンの皆さんが納得する形にしなければいけないのよ。ファンのおかげであなたたちはご飯を食べてこられたのだから。感謝を忘れてはいけないの」大澤社長の言葉が身にしみていた。彼女の言う通りだ。ファンがいたからこそ俺たちは成長しこうして食べていくことができた。音楽を聞いてくれている人たちに元気を届けたいと思いながら過ごしていたけれど、逆に俺たちが勇気や希望をもらえたりしてありがたい存在だった。そのファンたちを怒らせてしまう結果になるかもしれない。それでも俺は自分の人生を愛する人と過ごしていきたいと考えた。俺達COLORは、変わる時なのかもしれない……。

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